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Kindle本書評

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藤子・F・不二雄 大長編ドラえもん5のび太の魔界大冒険

 

大長編ドラえもん (Vol.5) のび太の魔界大冒険 (てんとう虫コミックス)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
名作揃いの大長編ドラえもんの中でも屈指の出来。
久しぶりに読んだら導入部から感嘆が止まらない。

とんでもなく上手い。

まず冒頭の、のび太が「魔法使えたらいいな」の夢と庭の落ち葉掃除という現実をホウキで繋ぐ流れがあざやか過ぎて笑える。

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その後も破れた絨毯をゴミ捨て場に運ぶところではわざわざ空飛ぶ絨毯でないか試し、ゴミ捨て場で壊れたランプを見つければ「ランプの精でろ。」と唱えドラえもんに怒られる定番ののび太
 
のび太というキャラクターとドラえもんの関係性、魔法なんて都合のいい物は現実(この漫画世界)には存在しないよ、ということを自然に印象付けていく手腕が見事。
 
ジャイアンスネ夫に連れ出された野球でものび太の夢想は止まらない。案の定大失敗し、野球の帰りではしずかちゃんに苦笑され、その後出木杉君にダメ押しされて落ち込むところまででワンセットなのだが、この一連の流れがもう黄金である。

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物語に読者を引き込む手腕も絶品だ。
 
ゴミ捨て場に落ちていたドラえもんそっくりの石像、怪しい空模様、深夜の侵入者等、伏線を巧みに張り、何か取り返しのつかないことが起こっている空気感を出しつつ、そのことに何も気づかないのび太ドラえもん。「そっちにいっちゃだめだ!」という方向にズンズン突き進むのび太ドラえもん
 
もうバカ!(愛)と思わずにいられない。
 
あげくにこの始末(笑)

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最高である。
 
 
もう一つの最高は大長編ドラえもんお馴染みのゲストヒロイン美夜子だろう。

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ゲストヒロインでありつつゲストペットという最強のコンボは大長編ドラえもんシリーズでも多分唯一。

藤子・F・不二雄のヒロインに一貫する強さと優しさを兼ね備えた人物なのだが、本作では際立って印象的な見せ場が多く、キャラが立ちまくっている。

一つあげるとすれば悪魔に追われるしずかちゃんを救うシーンか。

出来るだけ悪魔と戦いたくないという言葉の前振りがあってからの一片の躊躇いも無い行動。惚れる。

 

とは言え不満点も無いわけではない。

前半の流れは実に丁寧なのだが、本題の魔界に侵入してからが駆け足気味だ。

タイトルが「魔界大冒険」という割に大冒険部分のページが全体の尺の半分以下しかない。

たとえば、悪魔の港町をたった1ページでスルーせずに「ナルニアデスの『魔界歴程』」を手掛かりに大魔王を倒す銀の矢を盗み出す冒険エピソードなんか入ってたらどうだろう。そして次の「帰らずの原」の道路光線のシーンで見開きで主題歌の歌詞カット(*1)。魔界での冒険が更に濃厚な味わいになってたかもしれない。

いや、かえってテンポを悪くするかな。

 

しかし、そんな不満も物ともしないのがラストなのだ。

これは洒脱極まりない。

F先生の稚気と余裕が極まった大長編シリーズでも最高のラストだと思う。

 

未読の方も再読の方も是非読んでほしい名作ジュブナイルだった。

 

*1
因みに「のび太魔界大冒険」に主題歌の歌詞のシーンが無い事情はここで詳しく説明されている。