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Kindle本書評

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北原みのり 毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記

毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記
朝日新聞出版 (2012-10-01)
売り上げランキング: 12,650

 

決して容姿に恵まれているとは思えない木嶋佳苗があれほどまでに男を手玉に取り、獄中では結婚までしている事実。

首都圏連続不審死事件 - Wikipedia

木嶋佳苗に関する個人的な関心はぶっちゃけその一点だけになる。

つまり、ピュアに好奇の目だ。

 

本人のブログを読むと、他人を褒め味方に付けるテクニックに長けているのがわかる。一発目の記事でジャーナリストの青木理へ送っているラブコールは凄味すら漂う。

実際青木理氏は味方にならなかったわけだが、一行目から最後まで徹頭徹尾読み手を意識した密度の高い文章。断言調、「自己開示」、躊躇いの無い褒め言葉。文章力がハンパない。

そしてあの達筆。

これが私信なら本人に会ってみたいと思わせそうなパンチ力は十分あるのではないだろうか。

しかしである。

この文章から想像する本人像とメディアで見る木嶋佳苗の写真がどうにも結び付かない。

体型のせいもあるがあまりにもシャープさに欠けた印象。

良く言ってカピバラ

カピバラに褒められて嬉しいか?

数々の男に貢がせるだけの何かが、もっと言えば会った時の身体的な魅力があったはずだ。

それが無ければ男から金を引き出せるはずがない。

実際のところ生で見る木嶋佳苗ってどんな雰囲気なのか?

メディアに露出した写真そのままの印象なのか?

それとも写真ではわからない不思議な魅力があるのか?

 

本書はそういった疑問に答える、正に私が知りたかった事が書かれている本だった。

木嶋佳苗の写真からは伺い知れなかった本人の生の魅力について躊躇なく言及しているのが新鮮極まる。北原みのりの本は初めて読むのだが、主観的な書きぶりがかえってこの題材には活きている感じがする。

木嶋佳苗への言及も「佳苗」で通しており、傍聴を通して予想を裏切る木嶋佳苗に入れ込んでいくのがわかる。面白いのだが、次第に「佳苗」に自分の思いを載せていくのが読んでいて大丈夫か?という気になる。私の佳苗みたいな。

言葉を直接交わさずとも同性を虜にする魅力があるということだろうか。

木嶋佳苗本人のブログを読んでもどこまでも本人の言葉でしかなく、どこにも客観性が無いためなんとも判断がつかなかったのだが、北原みのり氏という第三者の視点を得ることで、木嶋佳苗の実体についてなんとなく置き所が見つかった感じだ。

 

著者の視線は被害者男性についても向けられる。騙された男達のみじめさがこれでもかというくらい晒される。この身も蓋もない感じが、木嶋佳苗への視線と対照的だ。思い入れゼロ。北原みのりの美点は正直であるところかもしれない。

 

なぜ殺したのか?など木嶋佳苗を取り巻く数々の謎は本書を読んでももちろん解明されない。しかし木嶋佳苗がなぜあれほど男を騙せたのかについては、なんとなく腑に落ちる感覚を与えてくれた。

 

木嶋佳苗に私と近い興味を抱いている人が読めば、何かを得られる本だと思う。

 

藤子・F・不二雄 大長編ドラえもん5のび太の魔界大冒険

 

大長編ドラえもん (Vol.5) のび太の魔界大冒険 (てんとう虫コミックス)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
名作揃いの大長編ドラえもんの中でも屈指の出来。
久しぶりに読んだら導入部から感嘆が止まらない。

とんでもなく上手い。

まず冒頭の、のび太が「魔法使えたらいいな」の夢と庭の落ち葉掃除という現実をホウキで繋ぐ流れがあざやか過ぎて笑える。

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その後も破れた絨毯をゴミ捨て場に運ぶところではわざわざ空飛ぶ絨毯でないか試し、ゴミ捨て場で壊れたランプを見つければ「ランプの精でろ。」と唱えドラえもんに怒られる定番ののび太
 
のび太というキャラクターとドラえもんの関係性、魔法なんて都合のいい物は現実(この漫画世界)には存在しないよ、ということを自然に印象付けていく手腕が見事。
 
ジャイアンスネ夫に連れ出された野球でものび太の夢想は止まらない。案の定大失敗し、野球の帰りではしずかちゃんに苦笑され、その後出木杉君にダメ押しされて落ち込むところまででワンセットなのだが、この一連の流れがもう黄金である。

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物語に読者を引き込む手腕も絶品だ。
 
ゴミ捨て場に落ちていたドラえもんそっくりの石像、怪しい空模様、深夜の侵入者等、伏線を巧みに張り、何か取り返しのつかないことが起こっている空気感を出しつつ、そのことに何も気づかないのび太ドラえもん。「そっちにいっちゃだめだ!」という方向にズンズン突き進むのび太ドラえもん
 
もうバカ!(愛)と思わずにいられない。
 
あげくにこの始末(笑)

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最高である。
 
 
もう一つの最高は大長編ドラえもんお馴染みのゲストヒロイン美夜子だろう。

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ゲストヒロインでありつつゲストペットという最強のコンボは大長編ドラえもんシリーズでも多分唯一。

藤子・F・不二雄のヒロインに一貫する強さと優しさを兼ね備えた人物なのだが、本作では際立って印象的な見せ場が多く、キャラが立ちまくっている。

一つあげるとすれば悪魔に追われるしずかちゃんを救うシーンか。

出来るだけ悪魔と戦いたくないという言葉の前振りがあってからの一片の躊躇いも無い行動。惚れる。

 

とは言え不満点も無いわけではない。

前半の流れは実に丁寧なのだが、本題の魔界に侵入してからが駆け足気味だ。

タイトルが「魔界大冒険」という割に大冒険部分のページが全体の尺の半分以下しかない。

たとえば、悪魔の港町をたった1ページでスルーせずに「ナルニアデスの『魔界歴程』」を手掛かりに大魔王を倒す銀の矢を盗み出す冒険エピソードなんか入ってたらどうだろう。そして次の「帰らずの原」の道路光線のシーンで見開きで主題歌の歌詞カット(*1)。魔界での冒険が更に濃厚な味わいになってたかもしれない。

いや、かえってテンポを悪くするかな。

 

しかし、そんな不満も物ともしないのがラストなのだ。

これは洒脱極まりない。

F先生の稚気と余裕が極まった大長編シリーズでも最高のラストだと思う。

 

未読の方も再読の方も是非読んでほしい名作ジュブナイルだった。

 

*1
因みに「のび太魔界大冒険」に主題歌の歌詞のシーンが無い事情はここで詳しく説明されている。